長崎のすずき矯正歯科、副院長の鈴木智貴です。
今回のテーマは、「リテーナーの種類とお手入れの方法、紛失時の作り直しの費用は?」です。
リテーナーって何?リテーナーをつける理由
まずは、リテーナーとは何か?リテーナーをつけなければいけない理由を説明します。歯並びが綺麗になって矯正装置を外したらもう何も装置をつけなくて良いと思っていませんか?装置を外してそのままにしておくと、せっかく綺麗になった歯並びが崩れてしまうのです。矯正治療終了直後の歯は周囲の骨が固まり切っていないだけでなく周りの歯周組織も元の戻ろうとするため、元のガタガタの状態に戻ろうとします。特に矯正治療終了後6か月はとても後戻りしやすい時期です。この後戻りを防ぐためにリテーナー(保定装置)を使用して新しい歯並びに歯の周囲の組織を馴染ませる必要があります。この期間を保定期間といい、後戻りを防ぐために重要な期間です。
ここではリテーナーの種類やお手入れの仕方、保定期間中のトラブル対応の仕方や破損時や紛失したときの作り直しの費用などについてご説明します。なお、後戻りについての詳しい解説は矯正治療後の後戻りの原因と対処法をご覧ください。
リテーナーの種類と正しい装着方法
リテーナーは大きく分けて3種類あります。マウスピースタイプ、一番一般的な可撤式のプレートタイプ、フィックスタイプと言われる固定式の3種類です。それぞれのリテーナーの特徴とメリット・デメリットを説明します。
マウスピースタイプ
クリアリテーナーとかインビジブルリテーナーとも言われるタイプで透明で目立ちにくい点や着脱可能で歯磨きがしやすい点が利点です。また、歯の表面を覆う形で特に前歯のデコボコなどの後戻り防止に効果的なリテーナーです。しかし、耐久性が低く、歯ぎしりのある方の場合はすぐに穴が開いてしまいます。また、取り外しを乱暴に行うとマウスピースが破れてしまい、再製作が必要になることがあります。
上下歯列共にマウスピースタイプを使用することはあまりお勧めしません。咬合面(咬む面)に2枚のシートが重なった状態で咬むため、奥歯が圧下(歯が骨の中に押し込まれること)されてしまい、奥歯が咬まなくなってしまうことがあります。私も以前患者さんの希望で上下歯列共にマウスピースタイプのリテーナーをセットしたことがあるのですが、噛みしめ癖のある患者さんだったために、1か月も経たないうちに患者さんから奥歯が咬めなくなってという連絡を頂き驚いた経験があります。マウスピースタイプをご希望の場合は目立ちたくない上顎歯列のみこのマウスピースタイプを使用して、下顎歯列にはプレートタイプか固定式のフィックスタイプを使用する事をお勧めします。
噛みしめ癖がの強い方は上顎歯列だけマウスピースタイプにした場合でも24時間使用すると奥歯が咬まなくなってしまうことがあります。この場合、日中は上顎歯列に目立たないマウスピースタイプ、下顎歯列にプレートタイプを使用し、夜間は上顎にもプレートタイプを使用して頂くのが良いでしょう。
マウスピースタイプの正しいつけ方、外し方
装着は簡単ですが、きっちり装着する必要があります。装着時に浮いている場合にはアライナーチューイなどを使用して浮いている場所をしっかり咬んでいく事が重要です。使用しているうちに徐々に浮きがなくなってきます。取り外す時はとても注意が必要です。必ず奥歯の裏側から少しづつ外して下さい。決して前歯の表側から取り外さないようにして下さい。マウスピースの辺縁が破れる原因になります。
プレートタイプ
歯の表側をワイヤーでおさえて裏側をプラスティックで支える最も一般的なタイプのリテーナーです。噛みしめ癖があり、マウスピースタイプが不向きの方にも使用でき、特に奥歯のかみ合わせを安定させるのに有利なリテーナーです。技工所に出してハンドメイドで製作してもらうため製作まで時間がかかります。また費用も一番かかるリテーナーです。歯の表側をワイヤーが通るため審美面では最も劣るリテーナーですが、耐久性にすぐれ半永久的に使用可能です。リテーナーが破損した場合もクリニックで修理しやすい点も利点です。また、着脱式なので歯磨きもしやすいです。
プレートタイプリテーナーの正しいつけ方、外し方
正しいつけ方はまず、前歯に唇側戦というワイヤー部分をひっかけてから奥歯まで押し付けるように装着します。装着後、内側のプラスチック部分を全体的にしっかり押し付けて浮きがないようにして装着します。外す時は逆に奥歯から外していきます。上顎用はたいてい一番奥に留め具がついていますのでここを軽くひっかけて外します。下顎用は奥歯に留め具がある場合と犬歯の後ろに留め具がある場合がありますが、この留め具をひっかけて外します。このプレートタイプのリテーナーはマウスピースタイプリテーナーと比べて外しかたは簡単です。
フィックスタイプ
主に下顎6前歯(犬歯から犬歯)の裏側に細いワイヤーを接着する固定式のリテーナーです。上顎にも使用可能ですが、下顎前歯と当たって外れてしまうリスクが高いのでお勧めしません。歯の裏側のみにつくタイプですので審美性に優れていることと、費用が安いことも利点です。ただし、欠点も多いリテーナーです。歯磨き難しく、特にワイヤーと歯肉の間に歯石が付きやすいため、毎日の歯磨きに気を付けて頂くだけでなく、定期的に歯科医院でのクリーニングが必須になります。
また、ワイヤーと歯の接着が外れても自分で気付かないことが多いことも欠点です。ワイヤーとの接着部位が外れた歯は全くフリーになっていますので動いてしまうことがあります。歯が動く前に再度接着すれば問題ないのですが、このフィックスタイプは後戻りが起きたときにマウスピースタイプやプレートタイプのように微修正ができないところも大きな問題点です。
このフィックスタイプリテーナーは自分で着脱することはできません。装着は歯科医院がするので問題ないのですが、外れた時にも自分でつけることは出来ませんので外れていないか日々チェックする必要があります。外れていることに気づいたらすぐに歯科医院に連絡して下さい。
お手入れの仕方
洗浄方法
固定式のフィックスタイプは自分で取り外すことができないので丁寧に歯磨きをして頂くしかありません。マウスピースタイプやプレートタイプは着脱式ですので、簡単にお手入れ可能です。
歯を磨くとき当然リテーナーを外して歯磨きするのですが、その時一緒に毛先の柔らかい歯ブラシで水洗いして頂くだけで十分です。この時絶対に歯磨き粉を使用しないでください。歯磨き粉には研磨剤が入っているため、細かい傷がついてしまうことがあります。細かい傷は雑菌が繁殖する原因になる恐れがあります。週に1、2度リテーナー洗浄剤で洗浄して頂くと匂いも気にならなくなります。洗浄剤は歯科医院にも置いていると思いますが、ネットでも購入可能です。
注意点ですが、絶対に熱湯につけたり、煮沸消毒はしないでください。リテーナーはプラスティック系の素材が使用されているため熱を加えると変形して使用できなくなります。また、アルコール消毒もプラスティック部位の劣化の原因になりますのでやめてください。
保管方法
食事などでリテーナーを外した時は必ずリテーナーケースにしまって下さい。通常矯正装置を外してリテーナーを装着する時に専用のケースを渡されるはずです。時々患者さんからケースに入れて保管する時に水を入れて保管した方がいいかと質問されるのですが、必要ありません。かえって雑菌繁殖の原因になりますのでそのまま保管してください。
ケースは長年使用していると爪の部分が壊れてしまうことがあります。そのまま使用していると自然に蓋があいてリテーナーがケースから出てしまい、破損や紛失の原因になりますので爪の部分が甘くなったら必ず新しいケースに変えて下さい。ネットで買っても高いものではありませんが、クリニックに言えばもらえるはずです。
リテーナーを外してそのままテーブルの上に置いておくと落として踏まれると破損する危険があります。また、犬などのペットを飼われている方は特に注意してください。ペットは飼い主の匂いが付いているものを咥えることを好みます。ペットにかじられて破損したという患者さんが毎年何人かいらっしゃいます。また外食時にティッシュペーパーにくるんで置いているとゴミと間違われて捨てられるなどのトラブルが頻発していますのでご注意下さい。
使用時間と使用期間について
矯正装置を外して半年は最も後戻りしやすい時期ですので歯磨きと食事の時以外は24時間使用することをお勧めしています。半年経過後に歯の周囲の骨がしっかり固まり徐々に使用時間を減らしていくことになりますが、歯の周囲の組織の個人差で後戻りしやすい方の場合は1年程24時間使用して頂くこともあります。最低2年は使用をお勧めしています。しかし、後戻りのしやすさは歯間繊維の強さや習癖など個人差に左右されるため一生涯使用することをお勧めすることもあります。
よくあるトラブルと解決方法
歯肉が痛い
保定開始直後にプレートタイプでよくおこるトラブルです。矯正装置を外してリテーナーを装着した時は何ともなかったのに翌朝下顎の奥歯の裏側の歯肉や骨隆起(歯ぎしりをする人によくみられる下顎の犬歯から奥歯の内側にできる骨のでっぱり)周辺の歯肉が痛くなることがあります。これはリテーナーのプラスティック部分が歯肉に食い込んしまうことが原因です。矯正装置を外してリテーナーに移行後1~2日で下顎の奥歯の裏側の歯肉が痛くなったらすぐに担当医に連絡して調整してもらうことで簡単に解決します。我慢して使用すると食い込んだ部位の歯肉に傷ができてしまい、調整しても傷が治るまで痛むことがありますのですぐに連絡してください。
また、ずっと何ともな使用できていたのに、急に痛むという場合は歯が動いてしまっていることが考えられます。この場合も調整が必要ですのですぐに担当医に連絡してください。
きつい、浮く、フィットしない
装着時に多少きつい感じがしてもきっちり装着可能な場合は大丈夫です。僅かな後戻りが考えられますが、そのままきっちり使用することでリテーナーが自然に歯を元の正しい位置に誘導してくれます。浮いたり、フィットしない場合はある程度の後戻りがあると考えられます。すぐに調整が必要ですから、担当医にすぐに連絡してください。
前歯が動いた気がする、デコボコができた
リテーナーの装着時間が短かったり、きっちり装着できていないために起こる後戻りです。すぐに担当医に連絡してリテーナーの調整をしてもらいましょう。プレートタイプであればワイヤー部分を調整することである程度までの後戻りは治すことが可能です。マウスピースタイプの場合でもアライナーチューイという装置でマウスピースを徐々に咬みこんでいくことで後戻りを治すことが可能です。ただし、時間が経過して後戻りが大きくなると修正不可能になりますのでとにかく早く連絡して頂くことが重要です。
また、フィックスタイプの場合は修正が困難になりますので、歯が動く前にワイヤーと歯の接着部位がとれていないか普段から気をつけて頂く必要があります。
壊れた、紛失した
マウスピースタイプの場合
マウスピースタイプは必ず咬合面(咬む面)に傷がついたり、穴が開いたりしてきます。咬合面に小さな穴が開いてきても破れていなければ問題ありません。しっかり歯をホールドできなくなる程穴が大きくなって破れてきた場合は再製作が必要です。また何度も着脱していると、マウスピースの辺縁にヒビが入ってくることがあります、僅かなヒビ割れであればヒビ割れ部分をカットすることで対処できますが、歯のホールドができないくらい大きなヒビが入っていたり、変形がおきている場合は再製作する必要があります。当院では自院で製作できますので2~3日以内に再製作可能です。自院で製作できないクリニックですと技工所に出すことになりますので製作にお時間がかかります。
プレートタイプの場合
破損で最も多いのはワイヤーのろう着部の脱離やプラスティック部位の破損ですが、自院で修理可能ですので当日または2~3日中には修理可能です。紛失した場合は技工所に再製作して頂くことになりますのでお時間がかかります。保定開始後あまり時間がたっていない場合はその間に後戻りするリスクが高いので暫間的にマウスピースタイプを製作して後戻りを防ぐ必要があります。
作りなおした時にかかる費用について
費用に関してはクリニックごとに違いますが、案外高価なものです。そもそもリテーナーの費用がいくらなのかわからないことが多いと思います。国立大学の大学病院などのように矯正治療費とリテーナーの費用が別々になっているクリニックと矯正治療費用に含まれているクリニックがあります。費用が別々になっている場合の費用は明快です。因みに東京医科歯科大学では2004年とデータが古いのですが、プレートタイプが上下各42,042 円となっています。作り直しの場合に同じ費用がかかるクリニックと多少割引いてくれるクリニックもあると思いますので予め聞いておくと安心です。
当院の場合、以前は大学病院と同じように別々でしたが、治療終了後にリテーナーはいらないと言われ困ったことがありましたので現在は矯正治療費に含ませていただいております。当院のように費用が矯正治療費に含まれている場合はリテーナーの費用が不明ですので、初めに尋ねておいた方がいいでしょう。当院では紛失等で再製作する場合、マウスピースタイプは上下各5000円(税別)、プレートタイプは上下各15000円(税別)、フィックスタイプは各3000円頂いております。
というわけで今回のテーマは「リテーナーの種類とお手入れの方法、紛失時の作り直しの費用は?」でした。