口元突出の原因は出っ歯?それともアデノイド顔貌?どちらも矯正治療で治る

外科矯正

長崎のすずき矯正歯科 副院長の鈴木智貴です。

矯正歯科に相談に来院される患者さんの主訴で叢生(デコボコ)と並んで多いのが出っ歯。
出っ歯を治したいという方多いですよね。
でも出っ歯って歯並びだけを治せばいいのでしょうか?
患者さんが出っ歯を治したい!という時は出っ歯が治ると口元もすっきりするはずという暗黙の願望が含まれいることが多いのです。

そもそも患者さんがいう出っ歯と矯正歯科医がいう出っ歯は少し違うことがあります。
患者さんは前歯が出ているか、口元が出ていれば出っ歯だと認識していますが、医学的には出っ歯は上顎前突といい、歯列(歯並び)の上顎前突と骨格性上顎前突の2つの定義があります。患者さんが出っ歯だと思っていたものが実は上顎前突ではなく上下顎前突だということも多々あります。

この記事では理解しやすいように初めに正常な歯並びと上顎前突の歯並びを簡単に説明した後に、患者さんが気にする口元の突出の代表的な4タイプとその原因、さらにどのような治療を行うと口元がすっきり治るのか説明します。

というわけで今回のテーマは、「口元突出の原因は出っ歯?それともアデノイド顔貌?どちらも矯正治療で治る」です。

正常咬合と上顎前突(出っ歯)


人間の歯は親知らずを除いて28本です。上のイラストのように上下左右各7本で合計28本です。1番、2番が前歯で3番が犬歯(八重歯になる歯)、4番5番が小臼歯という小さい歯で6番7番が大臼歯(奥歯)で6番が6歳臼歯になります。ここまでが前提の基礎知識です。

上のイラストを見てください。上段が正常咬合の歯並び、下段が上顎前突の歯並びです。
正常咬合では横から見たときに犬歯から後ろの歯が下の犬歯(3番)、上の犬歯(3番)下の4番、上の4番、下の5番、上の5番、下の6番(6歳臼歯)、上の6番というように下上下上下上と互い違いに1歯対2歯で咬んでいるのがわかりますか?
それに対して下段の上顎前突の歯並びではこの上下の咬み合わせがずれて1歯対1歯で咬んでいますね?
激しい出っ歯になるとこれがさらにずれて上顎3番、下顎3番、上顎4番、下顎4番というように丸々1本分咬み合わせがずれてしまい、1歯対2歯で咬んでいることもあります。この場合は上顎前歯は著しく突出していることがほとんどです。

我々矯正歯科医は上段のように1歯対2歯で咬んでいる上下顎の歯並びに前後的なずれがない咬み合わせを1級咬合といいます。そして下段のように犬歯~奥歯の咬み合わせが前後的にずれている(下顎の歯列が後方にずれている)歯並びを2級咬合といいます。出っ歯とは厳密には2級咬合のことを指しています。正常咬合は1級咬合ですが、1級咬合はすべて正常咬合というわけではありません。1級、2級はあくまで上下顎の歯列に前後的なずれがあるかないかで決まります。たとえば犬歯~奥歯の咬み合わせは正常だけどデコボコがある場合は1級叢生といいます。もちろん歯並びはガタガタですから正常咬合ではないですよね?1級咬合、2級咬合というのは専門用語ですが、この記事を理解して頂くために必要なので上のイラストから雰囲気だけでも掴んで下さい。

また、上のイラストでは歯並びにおける上顎前突の定義を説明していますが、これと別に上顎骨と下顎骨の前後的なずれで判断する骨格性上顎前突の定義があります。例えば歯並びは正常に1歯対2歯で咬んでいるのに上顎骨に対して下顎骨が大きく後ろにずれていることがあります。この場合は歯並びは1級咬合ですが、骨格性上顎前突になり、口元の突出した顔貌になります。

患者さんが気にする口元突出の4タイプ

 


上のイラストは私のクリニックに出っ歯を治したい、口元が出ているのを治したいと希望され来院される患者さんの代表的な横顔をタイプ別に描きました。綺麗な横顔の5つの基準とは?矯正治療と横顔の関係 という記事を参考にして下さい。

タイプA:上下の唇が突出しているがオトガイの後退はほとんどない

タイプB:上唇が突出している。オトガイの後退がある場合とない場合がある。

タイプC:オトガイが極端に後退していて、かつ上唇が突出している

タイプD:オトガイが極端に後退しているが上唇は突出していない。

タイプC、タイプD、は顎がないように見えるのが特徴です。アデノイド顔貌とか口呼吸様顔貌と言われる横顔です。

 

口元の突出の原因になる出っ歯の3タイプとその治療法

口元の突出を引き起こす出っ歯の原因は主に3タイプです。厳密にはもっと複雑なのですが、あまり詳しく説明すると混乱させてしまうのでざっくりとした分類で説明します。ここでは出っ歯の原因と、どのような治療したら患者さんの希望通りに治るのかを3タイプそれぞれにわけて説明します。

上下顎前突

上下の前歯が突出している歯並びで、咬み合わせは1級のことが多いですが、軽度の2級のこともあります。骨格的にもほぼ正常で上下顎の骨の前後的なずれはほとんどないことが多いです。上のイラストのタイプAにあたります。医学的には出っ歯(上顎前突)ではないので正式には上下顎前突といいます。

上下顎前突

タイプA:上下前歯の突出を原因とする口元の突出の典型的な横顔

治療法

上下顎左右小臼歯を4本抜歯して矯正治療することで口元がすっきりとした感じに治ります。4本の小臼歯を抜歯することで歯列に隙間ができますが、その隙間を利用して上下の前歯を後方に移動することで唇を引っ込めることが可能です。デコボコの大きい歯並びの場合は抜歯でできた隙間がデコボコを治すことに使用されますので、前歯を後方に移動できる距離が少なくなってしまい、期待したほど口元が下がらない可能性があります。逆にデコボコが少なければ少ないほど抜歯でできた隙間を前歯の後方移動に使用できますので口元を大きく後退させることが可能です。ただし、前歯の後方移動量が大きくなる分治療期間が長くなります。

上顎前突

2級咬合という咬み合わせで上顎歯列に対して下顎歯列が後ろにずれています。骨格的には下顎骨が後ろにずれていることもずれていないこともあります。上顎前歯が出ているのが特徴で、一番わかりやすい出っ歯です。上のイラストのタイプBになります。

上唇の突出

タイプB:上顎前歯の突出を伴う出っ歯の典型的な横顔

治療法

このタイプは上下歯列の前後的ずれがどの程度か、下顎歯列にデコボコがあるか、下顎前肢の角度は良好か、上顎骨の後方に奥歯を移動させる骨の余裕がどの程度あるのかなどによって治療法が主に3つ考えられます。

上顎左右小臼歯抜歯

上顎左右小臼歯を抜歯することで上顎歯列に隙間を作り、その隙間を利用して前歯を後方に移動することで出っ歯が治る方法です。口元の突出が主に上顎前歯によるもので下顎歯列のデコボコが軽度かつ下顎前歯の角度が良好または舌側(後ろ)に倒れていて、下顎歯列を非抜歯で無理なく並べることができる場合にこの治療法を選択します。

上顎の親知らずのみ抜歯

下顎歯列を無理なく非抜歯で並べられるだけでなく、上顎大臼歯(奥歯)を十分に後方移動できるだけの上顎骨の奥行がある場合に選択します。上顎に親知らずがある場合は抜歯をして、上顎歯列を全て後方に移動することで出っ歯を治す方法です。上顎骨の奥行がある白人向けの治療法です。日本人は上顎骨の奥行があまりないため、この方法が選択できる人は限られています。

上下左右小臼歯抜歯

下顎歯列のデコボコが大きい場合に選択する方法です。また、下顎歯列のデコボコが小さくても、下顎前歯が唇側(前方)に倒れていて後方に移動しないと口元の突出が十分改善しないと思われる場合もこの方法を選択します。上下左右4本の小臼歯を抜歯するため上顎前歯だけでなく、下顎前歯も後方に移動できるため他の2つの治療法にくらべて上下前歯の後方移動量が大きくなります。そのため口元の突出が最も治る治療方法です。口元の突出量が大きく、とにかく口元を下げたい患者さんの場合、下顎歯列を非抜歯で並べることが可能であってもあえてこの治療法を選ぶことも可能です。

下顎骨の後方回転を伴う上顎前突

上のイラストのタイプC、タイプDにあたります。このタイプは歯並びというより骨格のずれが原因の出っ歯です。下顎の骨が単に後方にずれているだけでなく、回転しているためオトガイの後退感があります。歯並びは1級の場合もあれば2級の場合もあります。

治療法

このタイプは上唇が突出しているか否か、上下歯列の咬み合わせが正常(1級)か下顎歯列が後方にずれているか(2級)かによって治療法が決まってきます。この下顎骨の後方回転を伴う上顎前突の治療法は顔貌のタイプと条件で分類していきます。

上唇の突出と顎のない横顔

タイプC:上唇の突出とオトガイの後退による顎のない横顔

タイプCでかつ上下歯列の咬み合わせ2級の場合

下顎歯列を非抜歯で並べることが可能か否かで上顎左右小臼歯2本抜歯もしくは上下左右小臼歯4本抜歯のどちらかを選択することになります。ただし、口元の突出の改善が不十分な場合はオトガイ形成術を追加することも検討すべきです。

タイプCでかつ上下歯列の咬み合わせが1級の場合

この場合は上下左右小臼歯4本抜歯して隙間をつくり、前歯を可能な限り後方に移動することで口元の突出を改善します。後退したオトガイの位置は変化しませんが、上下の唇が後方に引っ込むため相対的にオトガイの位置が良くなったように見えます。

タイプD
上唇は綺麗だが顎のない横顔

タイプD:上唇は突出していないがオトガイの後退感による顎のない横顔

実は横顔の改善が困難なタイプです。他のタイプは上唇が突出しているため上顎前歯を後方移動して上唇を引っ込めることで横顔の改善を図ることができますが、もともと上唇が引っ込んでいるこのタイプでは上唇がさらに後退してしまって口元のさびしい横顔になってしまいます。このタイプだけは通常の矯正治療はお勧めしません。もし歯列自体に問題ない(デコボコがなく、上下歯列の咬み合わせが良い)場合は、オトガイ形成術をお勧めします。
歯列にも問題がある場合は外科矯正という矯正治療と外科手術を併用した保険適応の治療法をお勧めします。外科矯正は全てのクリニックで治療できるわけではないので、あらかじめ外科矯正にも対応しているかクリニックに問い合わせするとよいでしょう。

オトガイ形成術について

オトガイ形成術はオトガイ骨を切除して位置を修正する外科手術で、オトガイの後退感がある場合はオトガイ骨を前方に移動することでオトガイの後退感を改善する方法です。美容外科ではオトガイ部にシリコンをいれてオトガイの形を整えることもあるようですが、オトガイ形成術の方が安全性が高いと思われますので私はこちらをお勧めします。この手術はオトガイ骨に限局した手術ですから歯並びは治りません。また、矯正歯科で手術を行うことはなく、形成外科か口腔外科を紹介することになります。オトガイの後退による無呼吸症候群などの症状がない場合は保険が適応されませんのでご注意下さい。

 

出っ歯は自力で治せるのか?

メール相談で出っ歯を自力で治す方法はないのか?というご質問をよく頂きますので、可能性を含めたお話をしようとおもいます。まず、大前提として出っ歯を改善することは不可能ですが、横顔を少し改善することは可能な場合があります。また、子供の場合は出っ歯にならないように予防することができる場合があります。それぞれ可能性程度ですが、説明します。

リップトレーニング

出っ歯の方は唇を閉じようとするとオトガイに梅干しができますよね?これが見た目上問題になります。この梅干しは唇を閉じるときにオトガイ筋という筋肉を使って閉じることが原因です。通常、口輪筋という筋肉で唇を閉じるのですが、出っ歯の人や口輪筋が弱い人はオトガイ筋を使用してしまうので梅干しができるのです。つまり口唇を閉鎖するときにオトガイ筋ではなく口輪筋を使うトレーニング(リップトレーニング)をすれば梅干しが出来なくなる分、見た目は少し改善します。ただし、極端な出っ歯の方はそもそも口輪筋だけで唇を閉じることができないので効果が期待できません。

M.F.T.(口腔筋機能療法)

スキッ歯の方はこの方法が多少の効果がある可能性があります。スキッ歯の原因はさまざまですが、舌癖が原因になる場合があります。前歯が舌で押されて出っ歯かつスキッ歯になっている場合はこの舌癖を治すトレーニング(M.F.T.)をすることで僅かですが、前歯が下がり口元の突出を改善することが期待できます。

口呼吸や指しゃぶりなどの悪習癖を治す

改善方法というより予防法です。ですからお子様しか期待できません。そもそもタイプC,Dはアデノイド顔貌とか口呼吸様顔貌と言われるように口呼吸が原因の一つになります。ですから口呼吸をやめて鼻呼吸するようにすればアデノイド顔貌にならないよう予防できる可能性があります。骨格が成長完了した成人の場合は骨格を変えることはできませんが、口呼吸は様々に悪影響を及ぼすので改善すべきです。
また、指しゃぶりは出っ歯や狭窄歯列弓の原因になりますので3歳になっても指しゃぶりをするようであれば一度専門家に相談することを検討して下さい。舌癖も出っ歯、開口、アデノイド顔貌の一因になりますので、子供のうちに治すことをお勧めします。

というわけで今回のテーマは、「口元突出の原因は出っ歯?それともアデノイド顔貌?どちらも矯正治療で治る」でした。

コメント

  1. […] ソースからの抜粋: … […]

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