長崎のすずき矯正歯科 副院長の鈴木智貴です。
カンタン!お手軽!目立たない!で近年人気のマウスピース矯正
ワイヤー矯正はちょっといやだけど、マウスピース矯正ならやりたいな!と思う方も多いはず。
実際に最近マウスピース矯正人気で矯正治療を始める人が急増しています。
でもいざ検索してみると・・・・
<マウスピース矯正 失敗><マウスピース矯正 後悔>など不安になる記事がたくさん!
興味はあるけど不安という方のために、この記事ではマウスピース矯正で治るのか?治らないのか?などホントのところを一番有名なマウスピース矯正装置、インビザラインに絞って解説します。
先に結論から言いますと、インビザラインは適応症を選んで、適切な治療を行えばきちんと治ります。実際に私もインビザラインでマウスピース矯正を行っていますが、ほとんどの症例でワイヤー矯正と見分けがつかないレベルで治療できています。(かなり以前の症例で2症例ほどワイヤー矯正で修正させていただいた症例があります。マウスピース矯正は歴史が浅いため、ワイヤー矯正に比べて科学的な裏付けに乏しいのは事実で、現在も改良途中。そのため確実性はどうしても劣ります。)
でも、マウスピース矯正のトラブルが多いのは残念ながら事実です。
実際、消費者庁に寄せられる矯正治療に関するトラブルの中でマウスピース矯正に関するトラブルが急増しています。
これを受けて、日本矯正歯科学会(矯正歯科医で構成される専門学会)でもマウスピース矯正の注意喚起を行っています。
公益社団法人 日本矯正歯科学会 ポジションステートメント マウスピース型矯正装置による治療に関する見解
この記事ではマウスピース矯正の中で最も一般的なインビザラインのシステムとトラブルが頻発する理由を説明します。
Contents
インビザラインによるマウスピース矯正ってどんなもの?
インビザラインでトラブルが頻発する根本的な理由はインビザラインが通常の矯正治療と全く違うものだと誤解している歯科医が多いことにあると思います。インビザラインでも歯に力をかけて動かすいう意味でワイヤー矯正と同じですから、治療する歯科医に必要とされる知識と技術は基本的に同じです。ただ、装置の形と素材が違うため、僅かに異なる知識が必要である事は事実です。まず、どちらの装置で治療するにしても矯正歯科医に必要な知識を説明した後に、インビザラインのシステムとワイヤー矯正との違いについて説明します。
インビザライン、ワイヤー矯正に共通して必要な知識
矯正歯科医に必要な知識は様々ですが、絶対に必須の知識が2つあります。インビザライン治療であってもこの2つの知識が十分でない歯科医に治療を任せることはお勧めできません。
①診断力
治療ゴールを設定する知識で、患者さんの骨格やかみ合わせ、希望をもとに個別の治療ゴールを設定するスキルです。最も重要かつ習得に時間がかかります、矯正治療の戦略にあたる知識です。日本矯正歯科学会認定医を受験するために最低5年の研修が必要なのは、この診断力を身につけるために5年以上必要だよね、ということです。この診断に関してはインビザラインもワイヤー矯正も全く同じで違いはありません。
②フォースシステム
診断で設定した治療ゴールに向かって歯を動かす知識で、矯正治療の戦術にあたる部分です。まず、大前提としてワイヤー矯正でもインビザラインでも同じなのですが、力をかけた通りに歯は動かないのです。これは力学的、生物学的要素が関係するため詳しくは説明しませんが、非常に大切なことです。恥ずかしながら私も矯正科に入局してしばらくはこのことが理解できていませんでした。マウスピースはワイヤー矯正と形と素材が異なりますので、この歯の動かし方に僅かな違いが出てきます。
インビザライン治療のシステム
実際にインビザライン治療を開始するまでの手順を簡単に説明した後にインビザライン治療の治療結果を左右するクリンチャックについて説明します。
①初診相談
②検査
③診断
ここまでは通常のワイヤー矯正と全く同じです。ここから、診断で決まった治療方針通りに歯を動かすためのマウスピースを作製するための手順に移行します。
④クリンチェック作製のための歯型をとる
当院の場合はIteroという光学印象を使用しますが、シリコーン印象材を使用した精密印象でも可能です。
⑤クリンチェック作製
これがインビザラインシステム独自のもので、治療のゴール設定とゴールまでの道筋を決めるシステムです。このクリンチェックに沿ってマウスピースが作製されます。
⑥インビザラインのマウスピースを装着して治療開始
以上の手順の中で⑤のクリンチェックが最も重要なのですが、実際のクリンチェックの画面を見て頂くのが一番イメージしやすいと思います。これは実際にインビザランで治療している当院のスタッフのクリンチェックです。
④でとった印象をインビザライン社に送ると上のイラストのような治療計画が送られてきます。イラスト左上が最初の歯並びで、右上が最終的な治療ゴールの歯並びです。下にある表が歯が歯牙移動表といって歯が実際にどのように動くのかを示した物です。わかりにくいと思いますが、歯並びの上に7治療計画と書いてあるのがわかりますか?これは7回目の治療計画という意味なのですが、この症例では実際にクリンチェックを7回修正して最終的な治療計画を決定したという意味です。この最終的な治療計画をもとに実際のマウスピースが作製されることになります。
最初はインビザライン社が作製したクリンチェックが送られてきますが、これはあくまでもたたき台で、送られてきたクリンチェックは実際の治療を考慮して作られたものではありません。診断で決めた治療ゴールにそって修正する必要があるのです。
インビザラインとワイヤー矯正の違い
インビザラインなどのマウスピース矯正が通常のワイヤー矯正と大きく違う点は以下の2点です。
①歯を動かすために加える力の方法が違う
通常の矯正治療の場合、歯に接着したブラケットという矯正装置を通じてワイヤーで力をかけますが、インビザラインの場合はマウスピースで歯に直接、力をかけます。歯の一部に力がかかるワイヤー矯正と違い、マウスピースの場合は歯の表面全体に力が伝わる点は有利なのですが、プラスチック製のため、力が正確に伝えられない点が不利なのです。そのためワイヤー矯正とインビザライン等のマウスピース矯正では歯を動かす時のシステムに違いが出てきます。この違いを治療に反映できるか否かが治療成功の一つの要素になります。
②治療ゴールまでの修正方法が違う
通常のワイヤー矯正の場合は月に一度通院して調整していきますが、その際にゴールに向かって毎回修正を繰り返します。インビザラインの場合は最初にゴールまでのマウスピースを全て作製しますので、毎回修正することはできません。治療がある程度進んでゴールから外れてきた場合は、追加アライナーというシステムでもう一度クリンチェックを作り直して治療ゴールに向かっていっきに修正します。追加アライナーは一度とは限りません。ゴールに到達するまで必要なら何度も作り直しますが、ほとんどの症例では1回か2回の追加アライナーが必要になります。イメージとしては下イラストのような感じです。
インビザラインでトラブルが頻発する理由
インビザラインもワイヤー矯正と同じように矯正歯科の専門的な知識と技術が必要なことがご理解頂けたと思います。そのうえでなぜ、こうもインビザラインにトラブルが多いのかご説明します。基本的にクリンチェックがちゃんと出来ていないことが原因の大部分なんですが、クリンチェックがちゃんと出来ていない理由として、担当医の矯正歯科の専門知識不足とマウスピース治療の特性に慣れていないことが原因の大部分だと言えます。以下に詳しく説明します。
マウスピース矯正は得意不得意がはっきりしている
マウスピース矯正は一般的なワイヤー矯正に比べて適応範囲が狭い、つまり治療できる症例が限られているんです。
理由はマウスピース型矯正装置は歯の移動で得意な動きと苦手な動きがはっきりしているんです。
以下が、マウスピース矯正が得意な歯の移動と苦手な歯の移動です。
歯体移動に関しては専門的で難しくなるのでここでは詳しい説明はしませんが、歯体移動が苦手だと抜歯して歯を前後に大きく動かす治療が苦手になるという事だけ理解して下さい。
以上のことから、マウスピース矯正は非抜歯矯正、特に歯列を拡大したり、奥歯を少しだけ後方移動することで治療できる中程度以下のデコボコ症例や軽度の出っ歯症例、軽度の開咬(前歯が咬まない)症例には向いています。
逆に抜歯症例、特に前歯を大きく後方移動することで口元をスッキリさせる(口ゴボの改善)治療には向きません。
矯正歯科の知識に乏しい歯科医が多い
そんなことあるの?って思いますよね。でもこれホントなんです。
通常のワイヤー矯正ですと、専門的な知識と技術がないと治療できないと歯科医も認識しています。
ですから、専門知識のない歯科医が安易にてをだしづらい。
でもマウスピース矯正の場合は専門知識がなくてもマウスピースを作る会社に任せていれば大丈夫と勘違いしている先生も。
インビザライン治療のシステムのところで説明したように、インビザラインでは患者さんの歯型をとってインビザラインの会社に送るとクリンチェックという治療計画が送られてきます。実際にはこの治療計画はあくまで単なるシュミレーションでここから歯科医が患者さんの骨格などから診断した結果にもとに修正して実現性のあるクリンチェックを完成させます。この時、そもそも正しくない診断をもとにクリンチェックを作製すると当然、全く治りません。また、マウスピースの特性を無視して歯の移動を計画しても計画通りに歯が移動しないために失敗してしまいます。ところが、矯正歯科の専門知識が乏しい先生の場合、初めに送られてきたクリンチェックでそのままマウスピースを作るように指示してしますため、実現性のない治療計画でつくられたマウスピースで治療してしまうことがあるのです。
かなり昔のことですが、あまりに強烈で鮮明に覚えていることがあります。
初めてインビザラインを導入する際には初心者用のセミナーを受講するのですが、100名近くいた受講者のなかで矯正専門医が数名しかいなかったのです。講師の先生は矯正歯科の専門医でワイヤー矯正とインビザライン矯正の歯の動きの違いなどの注意点を専門的に説明してくださり、とても勉強になりました。ところが、受講していた歯科医のなかには講師の先生の話が理解できていない歯科医も多かったようで、以下のような会話が聞こえてきました。
「セファロ(骨格の分析や骨の状態を診断するために使用する矯正治療で必須のレントゲン)なんて持ってない」
「そもそも読影できないし、分析なんて全くわからない」
「ようするに歯型をとって送ればマウスピースができるから問題ないよね」
「インビザラインに矯正の知識は関係ないでしょ」
ホントにびっくりしました。これではマウスピース矯正のトラブルが多いのも当然だと思いました。さらに、私が講師の先生に2,3質問したところ、講師の先生から
「先生、矯正専門医ですよね?先生の質問は他の先生たちには全く理解できないので終わった後で個別に質問して下さい」と言われ、その後講師の先生に個別にかなり長時間質問させていただいたのですが、講師の先生も全く矯正治療の知識がない参加者が多かったことをかなり心配されていました。
ワイヤー矯正もマウスピース矯正も歯の移動方法が少し違うだけで矯正治療の原理原則に違いはありません。ですから、マウスピース矯正でも矯正歯科の専門的な知識と技術は必須です。矯正歯科の専門教育を受けたことのない先生やワイヤー矯正の経験がない歯科医が治療可能だとは思えません。
インビザライン社が送ってくるクリンチェックは矯正歯科医が作製したものではない
初めに届けられるクリンチェックがインビザライン社でどのように作製されるか説明します。インビザライン社では送られてくる歯型と写真だけでクリンチェックを作製します。つまりレントゲンのデータがない状態で作製するのです。しかも作製を担当しているのは矯正歯科専門医どころか歯科医でもありません。
歯は歯槽骨(歯を支える骨)の内側でしか移動させることができないのですが、レントゲンデータもない状態ですと歯槽骨がどこまであるのかわからない状態で歯の最終位置を決めるわけですから、海図も羅針盤もない状態で航海するようなもので、矯正専門医でもこの状態でクリンチェックを作製することはできません。その結果、最初に届けられるクリンチェックでは絶対に歯が移動できないところに移動する計画が送られてくることもあります。
また、歯を移動する場合、ワイヤー矯正でもインビザラインでも固定源が必要になります。例えば、前歯を後ろに動かす場合、後方の歯を固定源にして前歯を後方に動かします。十分な固定源がない場合はインプラントアンカーなどを使用します。インプラント矯正と呼ばれている方法です。矯正歯科医にとっては常識なのですが、最初のクリンチャックは矯正歯科医ではない担当者が作製するため、全ての歯を同じ方向に動かすような実現性のない計画が送られてきたりします。
矯正歯科医であれば送られてきたクリンチェックをしっかりチェックして修正していきます。インビザラインの治療システムのところで使用した実際のクリンチェックのイラストで7回も修正しているのはこのような修正を行っているためです。ところが、知識も経験もない歯科医が担当医の場合には最初に送られてきたクリンチェックを修正せずに使用したり、修正が不十分な状態でマウスピースを作製することも多々あるためトラブルが起こるのです。